2023年5月30日火曜日

誤用の多い漢字クイズ 煮詰まるを行き詰まるの意味で使用は間違い?

 「議論が煮詰まった」などと使われる「煮詰まる」。「日本国語大辞典 第2版」(平成15年 小学館)には、以下の三つの意味が載っています。
 以下のうち、本来は間違いとされていた新しい用法はどれでしょう?

(1)議論や考えなどが出つくして,問題点が明瞭な段階になる。
(2)煮えすぎて水分が蒸発してしまう。
(3)問題や状態などが行きづまってどうにもならなくなる。


答え:(3)問題や状態などが行きづまってどうにもならなくなる。

 選択肢が思いつかずに、ちょっと変てこな問題になりました。すみません。
 こちらも前回に続いて、文化庁月報からです。

文化庁月報 平成24年1月号(No.520) 議論が「煮詰まる」のは良いことか?
http://www.bunka.go.jp/publish/bunkachou_geppou/2012_01/series_08/series_08.html

 非常におもしろいのが、「議論や考えなどが出つくして,問題点が明瞭な段階になる」と「問題や状態などが行きづまってどうにもならなくなる」がほぼ正反対と言ってよいほど、異なる意味になっていることです。実はこの手の正反対の変化をしたものというのは何個かあります。
 文化庁では、この変化の理由を以下のように考察していました。

<一つには,物事がうまく運ばない状態を意味する「行き詰まる」という言葉の影響を受けていることなどが考えられます。また,比喩的な用法以前の問題としても,例えば,料理が煮えすぎて水分が蒸発してしまい,味が濃くなりすぎたり,焦げ付いてしまったりといった望ましくない経験をすることは誰にでもあるでしょう。その結果,中身が濃縮していくという面に着目した本来の意味が忘れられ,行き詰まってしまうというマイナスイメージと結び付きやすくなっているということがあるのかもしれません>

 ただし、平成19年度の「国語に関する世論調査」を見ると、これは新しい意味が完全に定着しているとは言えなそうです。
 以下は、"「七日間に及ぶ議論で,計画が煮詰まった。」という例文を挙げて,「煮詰まる」の意味を尋ね"たもの。

(ア)(議論が行き詰まってしまって)結論が出せない状態になること・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37.3%
(イ)(議論や意見が十分に出尽くして)結論の出る状態になること・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56.7%
(ア)と(イ)の両方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1.2%
(ア),(イ)とは全く別の意味 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 0.2%
分からない ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4.6%

 従来の意味である「結論の出る状態になること」の方が優勢でした。まだ逆転には至っていないようです。

 また、世代ごとの傾向もおもしろいです。"40代を境にして「結論の出る状態になること」と「結論が出せない状態になること」を選んでいる人の割合がはっきりと逆転"というわかりやすい特徴が出ました。
 "若い世代では「結論が出せない状態」,年配の世代では「結論の出る状態」というように,正反対の意味でこの言葉を使っている可能性"もあります。これもおもしろいといえば、おもしろいですが、困ったことでもあります。

 この世代間の違いを見ると、現在は言葉の意味が変化している真っ最中、過渡期のように思えます。
 しかし、ごくまれに「正しい」とされる、従来からある意味が広く知らされることにより揺り戻しが起き、新しい意味が衰退していくこともあります。おもしろいですね。