2023年7月15日土曜日

究極のデータ野球では負けるチーム作り ジェフ・ルーノウのアストロズ

  野球にデータを持ち込んむことで、セントルイス・カージナルスで成功させた元経営コンサルタントのジェフ・ルーノウさんは、ヒューストン・アストロズのチーム作りを新たに任されました。このときに導き出された"アストロズを強くするための方法"というのが、負けても構わないから一軍の主力選手…つまり、高学年棒の選手をトレードで放出することでした。
 では、この浮いたお金をどこに使おうとしたのでしょう?

(1)質より量で、お買い得な若手選手を多く獲得するため。
(2)チームが数年後に最適となるように、バランスよく必要な選手を補強するため。
(3)二軍やスタッフなどを強化するため。







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答え:(3)二軍やスタッフなどを強化するため。

 二軍ではなく、ファームとメジャーリーグでは呼ばれますが、一軍ではなく「マイナーリーグ」などを強化するという意外な理由です。
 元記事では、"2、3シーズンの間チームが負けてもかまわないのでできる限り一軍の出費を抑え、ここから捻出された資金を「ファーム」「分析スタッフ」「新しい野球学校をドミニカ共和国に作る」などの資金効率の良い部分に分配する"というものでした。

 当然、これは反発を浴びます。他球団のオーナーは、アストロズの試みは「スポーツマンらしくない」としていました。
 また、「ボストンやニューヨークのような場所ではアストロズで行っているような大胆な施策は決し行えないから。なぜならそんな暴挙をファンが受け入れるわけがないから」とも言われます。
 しかし、地元のファンだってこんなことは許せないでしょう。"もちろんヒューストン・アストロズの本拠地であるヒューストンでも、アストロズの方針を快く思っていない人は大勢"いるようです。

 とにかく前述の作戦は実行されました。もともと"2013年シーズンのスタート時、アストロズが選手に支払う予定の年俸合計はリーグで一番少ない2700万ドル(約28億円)でした"。
 しかし、そこから"ルーノウ氏はこの施策に沿って年俸の高い野球選手としては優れた選手たちをトレードで放出し"、"シーズンの終わりには選手年俸の合計額が1300万ドル(約14億円)"とさらに下がりました。
 普通の"チームの合計年俸は約87億5000万円"程度と予測されていますので、衝撃的な安さです。

 これはメジャーリーグに降格がないこと、ドラフト制度があることから可能なことでしょう。1軍は負け続けたものの、マイナーリーグ強化のおかげで"アストロズのファームのレベルは球界屈指のものになって"いきました。
 また、強化目標の一つであったスタッフは、"ルーノウ氏と同じく野球と関係のない仕事をしてきた""エンジニアやコンサルタント、データ科学者、物理学者など"を揃えました。"新しく利用可能になったデータをうまく活用するために集められているスタッフ"だそうです。

 ドラフトに関しては、もう少しエピソードがあります。カージナルス時代の話ですが、"ルーノウ氏はドラフト会議で素晴らしい成果を上げ"ていました。"ルーノウ氏がカージナルスのGMに就任してドラフト会議での選手選考を担当したのは7年間ですが、その間に獲得した選手のうちメジャーに昇格した選手の数は他のどの球団よりも多"かったそうです。
 "2013年10月にセントルイス・カージナルスがボストン・レッドソックスとワールドシリーズを戦った際には、登録リスト上の選手25人中16人がルーノウ氏が任期中にドラフトで獲得した選手"だったというエピソードもあります。

 データ的な話としては、リーバイスのジーンズを販売した経験が生きました。
 人々はジーンズを買うときに見栄を張ったサイズで買うので返品が多くて困っていました。日本人には補足がないとわからないと思いますが、アメリカ人はバンバン返品してくるものなのです。
 これを解決するためにデータ予測で顧客のサイズ感を修正できるようにしました。"このような「データを活用した予測」をカージナルスでも活用"して、ドラフトに使っていたようです。

 また、プレーでの話では、「守備シフト」のことが書かれていました。"アストロズは守備シフトが多いチーム"だそうです。
 "例えば左利きのプルヒッターに対してはショートが二塁の右側に移動することで、ゴロの打率を約30ポイント低下させる"といったデータに基づき、守備シフトを変更しているようです。
 さらに"アストロズの二軍では従来の「5人のピッチャーでのローテーション」ではなく、4、5回を連続でひとりの投手に投げさせ、1試合を2人の選手に投げさせるという「タンデムシステム」を採用"しています。これは結果重視ではなく、"よりピッチングの才能がある選手を発掘できるように"という目的だそうです。

 選手の発掘では、防御率8.94とズタボロのピッチャーを"通常のカーブが毎分1500回転程度で回るところ"を"毎分2000回転と群を抜く回転数をたたき出すはワールドクラスのカーブ"を持つとして獲得したという話もありました。
 このピッチャーには"「ストライクゾーン高めにボールを集める」という一般的な投球論とはかけ離れた指示も出し"ています。"低いボールを打つことにばかり慣れて高いボールは苦手になった打者が増えてきている"と分析し、ファームで"有効であることの確認が取れたので一軍"でも使っているとのこと。

 非常におもしろいのですが、今は従来型の野球への揺り戻しも起きており、"ルーノウ氏の革命が無事成功するのか"どうかは不透明な状況にあるようです。